なんてことない地元の本屋さんで私は多くのものと出会った。
その1つがプローチダという小さな島だった。
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それは中学3年生の時のことで、もう10年以上も前になる。
今にも雨が降りだしそうな暗い夕方、確か買い物か何かのついでにいつもの本屋さんへ立ち寄ったのだと思う。2階建てで、その2階にはデザインやアートに関する本が並べられていて、私の地元にしては品揃えが良く大きなお店だった。(残念ながら現在は漫画コーナーになってしまいデザイン書コーナーは縮小されてしまった)
そして、そこにはカフェも設置されていて、コーヒーの香りと食器の重なる音がとても心地良かった。
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その日もひと通りタイトルを見てまわろうと、まずは建築書コーナーへ向かった。そこで1番に目に入ったのが今月の新刊として目立つ所に置かれていた建築雑誌"GA houses 83"。
何の気もなしに手にとってぱらぱらとページをめくる。
その時、1枚の写真に目がいった。いき過ぎてしまったページを数ページめくり戻し、まじまじとその写真を見る。
そこには、何処かの丘から見下ろした構図で見開き1ページに全貌が収ってしまいそうなくらいの小さな島が写っていた。
周辺の海面には小さな船がぷかぷかと何船も浮かんでいる。
その小さな島には淡いパステル調の家々が建ち並んでいて、暖かな光を浴びてとても気持ち良さそうに、まるで島全体が植物のようにゆっくりと息をしているようだった。静寂でいて、それでいて圧倒的な存在感があった。
ページの左上には、
白い文で"Procida,campania,italy"と書かれていた。
その日、天気が悪くてどこかふさぎ込んでいたこともあったのかもしれない。
だから余計に写真の中の眩しいくらいのその光が、気になってしまったのかもしれない。
とにもかくにも、一瞬にして心を奪われてしまったのだ。
当時の私にとってはかなり背伸びをした値段だったけれど、こんな日もあろうかと貯めておいたお年玉袋から3千円をひっぱりだして、すぐにレジに向かった。
家に帰って、じっとずっと写真を見ても飽きることがなかった。二川幸夫氏が写真を撮って文章を書いて、鈴木恂氏がスケッチした図が添えられた、6ページほどの特集。時々そっと手に取って、眺めたりしていた。私とこの島は何の関係もないのに、何故だかこの特集を見るといつも心が穏やかになった。そうして、私は今まで何度救われただろうか。
たとえ他の本をしかたなく手放したとしても、この本だけは手放したくないと10年たった今でも思う。
そう、とうとうやって来たのだ。
イタリアの小さな島、プローチダへ。
あそこに見えるのが、
ずっとずっと夢見てた島。
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海の見える小さなアパートを借りて、少しだけこの島を見てまわろうと思う。
H.
2015.2.21 sat
NapoliからProcidaへ向かうCAREMARのフェリーにて